脳科学とAI音楽生成の融合
2025年11月に Nature Communications に掲載された研究が、AI音楽研究に新たな地平を開いた。名古屋工業大学の高木優准教授、大阪大学の西本伸志教授、Google DeepMindのTimo I. Denk氏らが共同で発表したこの研究では、fMRIで計測した脳活動から、被験者が聴いている音楽をAIで復元することに成功した。
注目すべきは、Googleの音楽生成AI「MusicLM」の内部表現と人間の脳活動に高い対応関係があるという発見だ。さらに、聴覚は視覚と異なり、低次情報(音の物理的特性)も高次情報(ジャンルやムードなどの意味)も同じ脳領域で処理されるという意外な知見も得られた。トランスフォーマーAIの内部構造が脳活動と対応する現象は、AIが単なるツールではなく「脳を知るための鏡」として研究対象になることを示唆している。
創造性の定量評価:CMUの実験
カーネギーメロン大学(CMU)の学際チームは2026年1月、AI支援作曲と人間作曲の比較実験を実施した。140名の音楽訓練を受けた参加者が15秒のメロディを作曲し、一部は生成AI「Udio」を使用、一部はAIなしで制作した。別グループが創造性・楽しさ・音楽性を評価した結果、AI支援メロディはテンポが遅く、音符数が少なく、聴取者評価では創造性が低いと判定された。
研究を主導したJose Oros氏は「多くのAI研究は生産性に焦点を当てるが、音楽や芸術では創造性・新奇性が中核的な成果指標だ」と指摘する。AIは「曲を作る速度」は上げるが、「人間が持つ体験に基づく創造性」にはまだ届いていない、というのがこの研究の核心だ。
業界データと研究の乖離
一方、業界データは研究の知見とは異なる現実を示している。Deezerが2026年4月に開示した統計では、日次アップロードの44%(約75,000曲/日)がAI生成だが、実際のストリーミングは全体の1〜3%に留まり、その85%が不正と判定されている。供給と消費の間に15〜44倍の乖離がある。
また、Princeton大学が2026年8月に Nature Communications に発表した研究では、音楽が聴取者の脳内で「物語のような」意味生成ネットワークを活性化させることをfMRIで示した。参加者の71%が同じ音楽に対して共通の「物語」を想像したという。音楽は抽象的な刺激ではなく、具体的な意味生成プロセスを伴う、という知見は、AIが「雰囲気」を模倣しても「意味」を生成できないことの裏付けともなっている。
日本発の独自研究
駒澤大学の平井辰典氏は2026年8月、LLMを用いて任意の周波数列から音楽理論を生成する手法を情報処理学会に発表した。既存の12平均律や長短調に依存せず、環境音や動物音声から周波数を抽出し、新しい音名・和音・旋律規則を生成する「メタサンプリング」の可能性を示唆している。
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AI音楽研究は、もはや「AIが曲を作れるか」ではなく、「AIが人間の創造性・意味生成とどう共存するか」を問う段階に入っている。AISA Radio ALPSでは、こうした最前線の研究動向を継続的にフォローアップしていきます。
